■マコの傷跡■

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chapter 53




~ chapter 53 “言葉” ~


同じ家に生活していると色んな話をする様になるし色んな事が見えてくる。
彼女はいつも元気がなく、いつも気を使って笑っているようだった。
私と話していても、どこか気を抜いてないのを感じる。
マコさんは偉いね、とかマコさんはすごいね、とか、そういう類の誉め言葉を彼女はよく使った。
そう言えば私が喜ぶと、いい気分になって自分を好きでいてくれると思ってるのだろう。
けれど、私からするとそれはどこか嘘っぽく、無理に合わせている感じだった。
気を使うというのはある程度必要な事だけれど、必要以上に気を使われるとこっちも気を使う事になる。
もっと仲良くなりたいと思っても、それ以上は近付けない、線を引かれた気持ちになった。
私の家で彼女が1番気を許せるのは私のはずだ。
あとは私の旦那と、その旦那の両親なのだから、当然そうだろう。
なのに、その私にさえそんなに気を使っている様では、疲れてしまうんじゃないだろうか。
私はもっと、彼女に心を開いて欲しいと思っていた。

毎日見ていると、今日は比較的元気だな、とか
今日はなんだか落ち込んでるみたいだな、というのがなんとなくわかる。
そうして会話の中で次第に悩み事をぽつぽつ話し始める彼女の話を聞いて、
想像していたより根の深いものがある気がして少し身構えた。

彼女は自分に自信がなく、発想のだいたいが後ろ向きで暗く、いつも重い壁にぶつかっているようだった。
例えば自分が太っているとか顔が大きいとかという外見の事を彼女はすごく気にしていた。
確かにどっちかというとぽっちゃり系ではあるし
顔も骨格がしっかりしているから大きく見えるかもしれない。
でも決して彼女は不細工な方でなく、肌も白くてつるつるだし結構キレイな顔立ちだった。
顔の形なんて髪型で全然どうにでもカバー出来る範囲だと思った。
私は彼女がどうしてそこまで自分の容姿に悲観的になるのかわからなかったけれど
思い起こせば自分もいつも自信のない人だったから彼女の気持ちがわかる気がした。
何事も前向きに考えられない気持ち。
“似てる・・・。少し前の私とそっくりだ・・・・。”

元々すごく明るくて面白い子なのに、悲観的になっている事で
いつもうつむいて表情が暗く、せっかくの良さが消されていた。
“もったいない。すごくいい子なのに、そんな生き方をしているのはもったいない”
どうにかしたかった。自分自身と重ねて見ていたからだと思う。
絶対もっと幸せになれる子なのに。どうにかそれを彼女にわかって欲しいと思った。
彼女と話しをする中で、私は彼女に前向きな言葉を投げかけ続けたけれど
気付くとその言葉は全て、自分自身にも言える事だった。

どうしてそんな事をそんなに気に病んでいるの?
それがどうしても嫌ならやめちゃえばいいよ。無理する事ないじゃん。
その方法はだめだ、と思ったら違う方法を試してみたら?
上手く行かない時だってあるよ、次はきっと上手く行くよ。
大丈夫、元々すごく良い所を持ってるんだから、それをもっと大事にしよう。

彼女に言っているはずのそれらの言葉は、全て自分に跳ね返ってきていた。
彼女をフィルターにして私は私自身を見ていたのだろうと思う。
自分自身に向かってはなかなか言ってあげられなかった言葉を
彼女を通して私は自分自身にも言っていた。


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